2017-11

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いえやすとまさむね

ひとつ後ろのポッキーを取ろうとしたら一番手前のがばたりと倒れて、落ちた。
ああ、と思って、やっちまったなーと、拾って、棚に戻して、一つ後ろのを、籠に入れる。
その俺の耳の傍を腕が伸びて、俺が落とした一番手前の箱をとって、自分のかごに入れる。
ふ、とお前の籠に目を大ツィタ、タイミングで蛍の光が流れて、俺は弁当に入れる冷凍食品を見に行く。
お前は自分用の牛乳を買いに行く。
レジの前に戻ってくると、お前がもう、ひとつしか開いていないレジの前に並んでいる。
疲れた顔でレジをうつ姉ちゃんは手際がいい。規則正しい音。お前のかごの中の物は次々に移しかえられていく。
表見期限の近い牛乳、50円引きのまんじゅう。半額の納豆。俺の落としたポッキー。箱の角の潰れたコーンフレーク。三割引の見るからに粉っぽそうなすいか。

「俺は時々お前を馬鹿だと思う」
「そうか」
踏切が鳴る。フリンジが揺れる。遮断機が降りる。
重い方の荷物をお前は選んで持っている。思いやりとかではなく、自然に。
自分がそうするものだと思って、選んでいる。無意識に。選んでいるという意識すらなく選択している。
その愚かさを好ましくは思わない。
夕暮れだ。夜が足元から這い上って満ちてゆく。胸のあたりまで夕闇に浸かって、そろそろお前の顔形はわかっても、どのような顔かわからない。
線路沿いのどこかで下手くそなピアノ。ファーン、と警笛を長く伸ばした電車が目の前を走り去って、風と一緒に轟音が横っ面を叩いて通りすぎていく。
「儂は馬鹿と言うよりも」
遮断機が上がり切るのを待たずに一歩を踏み出した家康が一瞬の静寂に言葉を投げかける。
それを火種として、踏切を渡る自転車、バイク、俺達と同じ買い物帰り、駅へ向かう仕事帰り、皆一様に口々にざわめきだして動きを取り戻す。誰よりも先に踏み出した家康がちらと笑って俺を振り返る。
嫌な顔だ。自虐の顔だ。否定されるのをわかっていて卑下する顔だ。
「落ちたポッキーの、気持ちなど考えてしまって、そうすると」
馬鹿だ、と思う。
「そうすると」
繰り返した家康が、また、笑う。その顔が夕闇に浸されてよく見えない。目を凝らす。俺の横を自転車が通りすぎる。急ぎ足の合間を縫って前を向いた背中を追いかける。舌打ちをして、大股に踏み出す。
阿呆だ。愚かだ。無機物に、食い物に気持ちなどない。あるのは賞味期限と売れるか売れないかの判断と、鮮度やら見た目の美醜やら味の善し悪しやら、それだけだ。そんなもの、どこにでもある優劣だ。それを決めるのなど人間の価値観で、不幸と捉えるのなど、それも、勝手な人間の価値観だ。

家康は愚かだ。
それになんとなく憤る俺はもっと愚かだ。
家康の足が早くなる。恥じるように。逃げるように。俺が追いかけてくるのを待つように。
「おい!家の鍵持ってんのは俺だぞ!」
今、逃げた所で、意味などないのに。家康は遠回りをして帰るのだろうし俺はまっすぐに帰って、なんとなく、家の鍵をかって、料理をして、いずれ、お前はチャイムを鳴らす。
どうせ帰る家はひとつ。

その中で俺は俺の箱を、家康は家康の箱を開けて、それぞれのポッキーをそれぞれに食べる。
別々の時に。

そういうふうに、できている。

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東軍と佐助。

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