2017-09

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スイトグラヴィティ

慌てて後ろ手に閉めたドアの向こうに人がいる。脂汗を流しながら汗ですべって震える手で鍵を締める。自分の足の間にすきなひとのあたまがある。音を立てないようにそのままその場に座り込む。自分の顔を抱えると獣のにおいがした。

体を売って暮らしている。自分の話じゃない。みんなだ。自分の体を売っている。労働をする体を時間単位ではかりに乗せてグラムいくらの上等なお肉みたいに、時間いくらで売っている。昔も今も変わらない。みんな売春婦で、みんな男娼で、みんなはしたない。紙幣が昔から嫌いだった。手形とか、そういうのもだ。銀行振込のお給料とかぞっとしない。金貨銀貨の重みが欲しい。一仕事終えたら投げ渡されたい。それを財布に、あるいは小袋に集めてその重さを抱いて寝たい。

荒い息を整えようとして粘るつばを飲み込む。喉は熱がある時のようで、まったく慣らしていない下の口のように乾いてあつくてはりついていて、粘りついた少ない唾を飲み込むまでに三度ほどえづいた。

体中から汗が吹き出す。止め方を知らない。扉の向こう側で誰かが話している。体が震える。自分が引きずってきた重たい体が目の前の床の上に転がっている。自分がM字に開いて抱えた足の間に好きな人の頭が転がっている。脇の下に手を入れて引きずってこの部屋に放り込んだきりぴくりともしない。死んだのか確かめなくては、と思いながらそれをひどく億劫だと感じた。両の目玉の周りを手のひらで囲って水の中を覗きこむ時のように自分の足の間を眺める。押しのけた前髪が指先で梳かして腕を下に下ろす。
おそるおそる、横向きの顔の鼻の下に指を当てる。

息をしていた。

この人のために体を売らなければならない。
部屋は冷房が効きすぎていてしばらくすると汗で張り付いた下着がおぞけをもたらすほど冷たくなった。
自分を抱くようにして掴んだ二の腕の後ろの脂肪か筋肉か、とにかく肉が指先から熱を奪っていく。
話し声は一向に去らない。何を話しているか聞こえないのに、ただ、会話だけボゾボゾといつまでも終わらない。
隣の部屋でつけっぱなしのテレビのようにたまに笑い声を交えながらどこまでも弾んで続く。

自分の口を右手でゆるく握った拳で押さえる。つとめてゆっくり鼻から吸って鼻から出す呼吸を繰り返す。
手持ち無沙汰の左手を床の上に転がっている小十郎さんの髪の生え際に触れさせる。
だんだん冷たくなっていくからだが2つ。
自動で開閉するゲートをくぐって高速に乗って自動音声の案内で家に帰ったらアルコールのない代用物の飲酒をしていい気分になってテレビの中の虚構を見る。近未来みたいだと思う。ブレーキを踏まなくても危ない時には止まってくれる車。知らない場所まで自動でナビゲートしてくれる車。機能的で清潔で白い壁のイメージの近未来みたいな、現実だ。
人の声が消えない。自分の耳鳴りじゃないかと疑う。意を決して上半身をかがめる。
顔を寄せると小十郎さんのにおいがした。ヘアトニックと汗と若干土臭いのが混じった独特のかすかな香り。
「おきて」
ささやく。
ドアの外で話し声が一瞬途切れて汗がどっと吹き出る。すぐにどっと笑い声が響いてこわばった体がゆるむ。
「こじゅろさん」
もう一度囁く。ドアの外では笑い声がどうどうと響いている。手を叩く音まで聞こえる。
「おきて……」
不意にぞっと不安になった。
こめかみに触れさせていた指が髪をまさぐって地肌の温度を確かめる。あたたかいのを。そして脈拍を。
早く出ていかなくてはならない。早く戻らなくてはならない。
戻って、また体を売るのだ。しなくてはならない。お互いのために。
この人が動かない。
膝を崩す。たてていた膝を床について、狭い部屋にぎゅう詰めの体を四つ這いになった自分の体でまたぐ。
「起きて」
ややはっきりした声で呼びかけた。
「小十郎さん。起きて。迎えに来たんだよ」
俺様だよ、と呼びかける。軽く頬を叩いた。肉が揺れて、それだけだった。何の力も顔に入っていない。
足が震えた。
ゆっくり、無理な体制から立ち上がる。見下ろすと、床に倒れた男は死人に見えた。脈拍が勝手に早くなる。駄目だ、と自分に言い聞かせる。奥歯が鳴る。寒いせいだということにして噛み締める。足が震える。右足を持ち上げて、床を踏みつける。
意を決してまた、男の脇の下に自分の両手を差し入れる。持ち上げた下、体を半回転させて投技の直前のような体勢で背負う。ドアと向かい合う。どういう用途の部屋だか、おそらくは備品置き場にでもする予定の小部屋がたまさかあいていたのだろう。狭くて壁が白いだけのなにもない部屋だった。もう一つ出入口があるような部屋であればよかったのに、と思いながらドアを睨みつける。開けられてしまえばどのみち逃げ場はない。ただ、話し声が去るのを待って息を殺す。背負った男の鼻息が耳にあたって、それだけが心の拠り所だった。安らかで、整った呼吸。もっとして、と思う。ずっとそのまま、息をしていて欲しいと死人のように昏倒している男に望む。

このひとは自分を売った。俺様は今万引きをしようとしている。
人の売り買いなんて物騒に聞こえるけれど実際どこでもされていることで、その中身がどうであれ企業が、企業となってしまって人じゃない形をとってしまった時点で非道はうっかりまかり通る。人の集まりのはずなのに組織となってしまったら化物になって、いつの間にか、非道が許されている。あるいは求められ始める。線引きはどこからだろう。考えるけれど、それは自分に解るようなことではないような気がした。

持って帰って、この人を買うにはいくらいるのかちゃんと、携帯のじゃない電卓を使って計算しようと考える。
自分に値段もつけようと思う。そして自分を売って手に入れる。

そこまで考えて、昔クリスマスか何か、小学校で読まされた絵本を思い出した。
妻は自分の髪を売って時計の鎖を。夫は自分の時計を売って髪飾りを。
そういうことをしなくてもいいお金があればよかった、がクラスの大半の結論で、土地柄しょうがない事とは言え新米教師はおろおろした。だけどそういうことじゃないの、と今でも思うのだから進歩していない。いやそうじゃなくて俺様たち子供の頃から聡かっただけで進歩してないとかじゃないしと言い訳をしてみる。

ドアの前から話し声が消える。三々五々、去っていく気配。廊下は絨毯敷きだから足音がしない。内心で舌打ちをしながら
ともすれば早くなるカウントを10まで、念の為に5回繰り返す。50数えて大丈夫そうならすぐに動け、というのは昔何かのスパイ映画か何かで見た。下手くそな吹き替え、CMごとにぶつ切りにされてなにか大事なシーンを飛ばしてしまったままむりやり50分で完結する世界。夜中、起きだしてそういうのを見ている小十郎さんにくっつき直して寝るのが好きだった。
ドアを細く開ける。見渡した廊下には誰もいなかった。重たい体を背負って一歩を踏み出す。

捕まってしまった時のことを考える。詰問を。恐らく沢山問いかけられるどれにも返事をするつもりはないけれど、ひとつだけ、理由だけ、答えようと思った。

この人が欲しくて。

どうしても欲しくて。





社畜やめたいよーーーー!仕事楽しいよーーー!日本語喋りたいよーーーーー!(職場で) やけくそ!

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