2017-09

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

お前の五分が私の価値(マリアリ)

頬が赤い。真っ白な中にまあるく、赤い。
それをツバメの頬のようだと思って魔理沙は、首を傾けて本を流し読みながらアリスを眺めた。
アリスは腕まくりをして、まっしろな肘までの腕を空気に晒して洗い物をしている。
流しの上に横長に窓があって、そこが今は開いているから、頬が赤くて、呼吸のたびに唇からこぼれる息が白い。
手が、冷たそうだと思った。
「アリース」
背もたれに体重をかけて、ぎ、と椅子の前脚を浮かせる。机の天板の裏に膝を当ててバランスを取りながら、呼んだ。
振り返らないままなに?と返事をする。
「窓、さむい」
「だけど、空気を入れ替えないと」
アリスはこちらを向かない。話す言葉に合わせて、白く空気が染まる。
「頭がくらくらするわ」
頬に真っ赤に血の色が透けている。
「だけど」
「洗い物してる間だけよ。もうすぐ終わるわ」
「……へーい」
本に栞がわりにスプーンを挟んで、椅子をもとに戻す。冷め切った食後のお茶に口をつけながら、水色のスカートの上、くたりと結ばれているエプロンの白い紐を眺める。紅魔館のメイドのリボン結びとは違う、細くてくたりとしたアリスのエプロン紐。
窓が開いていればきっともっと手が冷たいと思うから、は余計なお世話だ。寒ければアリスは窓を閉める。だからこれは自分のおせっかいで自己満足だ。アリスのしたいことを、自分の無意味な安心の為に妨げる。
だって窓を開けようが閉めようが水は冷たい。本当にアリスを思うなら黙ってやかんを八卦炉にかけてぬるま湯でも洗い桶に足してやればいいのだ。アリスは燃料の無駄だとか色々言うだろうが、それは魔理沙の問題の範疇だ。共同の燃料を浪費したわけではないのだから、純然とした思いやりになる。
そんなことをぐるぐると思いながら砂糖の入った紅茶を飲み干す。熱の抜けて香りのとんだ紅茶の後味はただ渋かった。
口の中に茶渋を含んでしまった気持ちで、カップの底に溶け残った砂糖のジャリジャリを眺める。熱が飛ぶと飽和量も減るのだった。苦く思い出した口の中で、砂糖の甘味と渋みが混じって、何故か渋みより甘みが気持ち悪い。
「終わったわ」
ぽつんと呟いてアリスがばたんと窓を閉める。
あぁ、うん、と生返事をしてカップを押しやる。机に突っ伏した目の前に、赤い指。
「ちょっと、飲み終わったなら先に言ってよ」
ソーサーごと取り上げる手を上から押さえた。冷たかった。ぎゅう、と握る。
「なによ」
ソーサーを机に置く手を引っ張って、暖炉からの熱でのぼせた頬に当てた。目を閉じる。
「気持ちいい」
「……あったかいわ」
問いかけのつもりではなかったが、問いかけと取られたらしい。小さく言った後、ふ、と笑いがほころぶ気配がした。
「魔理沙、なんだか熱のある子供みたいよ、あなた」
んん、と適当にくぐもった返事をして、アリスの手を捕まえたままおでこを机に当てる。昼ごはんの残りのパンくずが刺さった。ひょっとしたら朝のかも知れない。机の掃除を自分に任せて、さっと食器を重ねて立ち上がってしまうのがアリスだ。
「んうーーー」
いやいやの仕草で首を振って、アリスの手に唇を当てる。
視界の端に干からびた布巾。昨日夕食の前にアリスが机を拭いて以来不動の布巾。
結局アリスは一人で暮らしていて、自分はその生活範疇に存在しているだけ。
「アリス」
「なによ」
こうしている間にも多分時計を見ている。定刻になれば離してちょうだいと言ってちょっと、怒る。
アリスが他人に頼むのは、別にしてくれないならそれでもいいけどしてくれたら嬉しいことだ。
誰にでもそうだ。
「明日はパチュリーのところに泊まるから」
晩御飯はいい、と最後だけ小さい声で言った。
「そう?」
うん。答えてまた顔を伏せた。何か、言われるのを待って耳を澄ませる。遠くからちくたくの後、ぼんぼんの音。
「魔理沙、1時よ」
「うん」
知ってる。
アリスは私を置いていくんだ。
「心配しなくても」
冷たい手が自分の手の下で抵抗を始める。温まって、指先まで血が通う前に。
頬をなぞって、耳をやさしく撫でて行ってしまう。
「焦らなくても」
いずれ、あなただって食事がいらない生き物になれるわ。溜息によく似た囁きを聞く。それは自分の頭の中で作り上げられた願望の声かもしれない。アリスの姿をした理想かも知れない。

昨日、また術式を失敗した。
自分の思いつきが最近うまく形にならない。
机の下の左手が、エプロンのポケットの中の八卦炉を握り締める。
「アリス」
お前にやさしくしたいよ。
思うことが苛立ちに繋がって、なんだかあんまりにも情けなくて喉に詰まった。
お前の名前に続く何もかも、言葉にならないから、ただ名前を呼ばれただけのアリスが冷たい指で耳たぶを撫でる。
「なあに」
なんでもないよ。頭の中で私は返事をする。
「なあに、魔理沙」
私の髪を指先で梳いて撫でながらアリスはただとろとろと優しい声で言う。
だけどあと5分も待てないんだろう。
1時を5分過ぎたらおまえは研究室という名前の二階に戻ってしまう。
そして私は勝手に自虐で惨めになるんだ。

「すきかもしれない」
「私はすきよ」
あなたのこと。きっぱりと言って、さあ、お前は出て行ってしまう。
私のいる暖かい部屋から。水仙の活けてある明るい居間から。

● COMMENT FORM ●


管理者にだけ表示を許可する

噛み癖ある魔理沙と不感症アリスでマリアリ «  | BLOG TOP |  » うそが本当に

プロフィール

Q子

Author:Q子
東軍と佐助。

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

bsr習作 (1)
告知 (2)
\デデーン/ (2)
ヒッキーさなだくん (3)
いろは譚 (1)
小十佐 (6)
家政が宇宙 (4)
伊達佐 (14)
いえまさかもしれない (12)
幸佐 (11)
デュラ (26)
お知らせとか (1)
bsr (1)
東方 (5)

検索フォーム

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。