2017-11

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うそが本当に

長い髪をしていた。油でてかてかの長い髪だった。
臭さを我慢して意志の力で手を置いたらしらみだらけのおうとつがわかって鳥肌が立った。
弟のものになるはずのものだった。生まれる前からそいつは弟用のものとして決められていた。
うちのものが捕らえた忍びを里に戻してやる代わりに、今度の6月に生まれるとかいう一腹のうち一番よいものを弟のためによこす、とそういう取決めだった。
産み月が冬の方が忍びはよく育つのだと聞いた。嘘だかは知らぬ。文月の終わりのことだった。
師走か霜月に生まれ月を控えて、孕んでいるのは十余人、そのなかで一番強いのを兄君に。他に時期はずれですが雨の時期に産み落とされる次の7人ほどのうち、一番よいものを弟君に。そういう約束であった。
それが季節外れに生まれた弟用のが飛び抜けて強い。そう聞いてひとつ飛ばして選んだのだ。
佐助、という名前だと聞いた。
定められた引渡しの日の前に一度、何も知らせずに里に顔を見に行った。
本当に自分のものになるはずの忍びよりよいものであるのか、見定めに行ったのだ。

長い髪をしていた。油虫のようにてらてらとした明るい、赤みの勝った茶色の髪をしていた。
差し上げる前にはどうのこうの、と上忍のじじいが後ろで言っていた。
「よろしく頼む。このような子供、座敷にあげれば俺が女中頭に叱り飛ばされてしまうわ」
子供の髪を掴んで顔を上げさせる。明るい色合いの目をしていた。異人混じりかと疑うほど明るい色だった。
「お前、親は」
「そういったものはおりません」
はっきりした声だった。後ろで爺があたふたとした声でとりなす。
「母親は生まれてすぐに死にます。借腹と私どもは呼んでおりますが、そういうものです。この子らは」
「いい。わかった。血筋は」
「そこまで大したものではございません」
「そうか」
「ですがこの子は特別です。」
爺が言葉を重ねた途端、子供がふ、と息を鼻から短く吐いた。誇っているのか笑っているのか。覗きこむと短いまつげの下から俺をてらいもなくねめつけた。
「俺様を傍において損などさせませんよ、旦那」
「そうか!」
強いものの目であった。それも幾度か手痛い失敗をした上で自分がどれだけのものかわかっての自信過剰であった。
過剰であることをわかりながらそれでも自分に信をおいている顔であった。
笑った。これならば心配ない。俺のために用意されていた忍びとも顔を合わせたが、あの子供に比べれば凡庸も凡庸、凡下にしか見えなかった。夕刻になり、そろそろ戻らねばならぬ、そういった刻限の頃、もう一度佐助を呼びつけた。
「俺はお前を選ぼうと思う。お前はどうだ。」
いやだと応えがあろうとも、これにすると決めていた。だが、子供の返事を聞いておきたかった。
頭に置こうと持ち上げた手を少し迷って、手のひらを上に向けて差し伸べる。
「俺は、お前にしようと決めた。佐助、お前も俺を選べ。」
少し迷ったように見えた。
「真田の旦那」
「そうだ。よくわかっているな。俺がお前の旦那様だ」
さなだのだんな、とうつむいて口にして、佐助ははにかんだように破顔した。
「いいよ。」
競わされる中、一等強いものには旦那様が決まっているのだから、と言い含められて育ったのだとはあとから聞いた。
「もうちょっとして大きくなったらあんたが迎えに来るんだろ、真田の旦那。待ってる。」
「よし、ならば」
特別、というものに憧れた中でその言葉の重さはどれだけであっただろう。
乗せられた手の親指の付け根が腫れているように熱を持っていて膨らんでいて、驚いてひっくり返した手のひらにはもうすでに沢山のたこがあってなるほどと感心したこと、そんなことをまだおぼえている。
「猿飛としよう。お前が俺のところに来た折には猿飛という名を与える。その名を用意して待っていよう。」
励めよ、佐助。と。
撫でた頭の下で体がひとつぶるりと震えて、約束するよ、と子供が言った。
「真田の旦那、俺様、あんたに絶対損はさせない。」

真田の旦那、という言葉が幸村のことを指していたのだとは後から佐助の口から聞いた。
何度か、噂だけ聞いていたらしい。同じようにひとつ上の子供も競わされ、一等のものだけが旦那様に仕えられると。
上田の海野嫡流、真田の家の兄弟にお仕えすることができるのだと。
大きなお屋敷で奉公が出来て、おまんまだってもらえて戦にちゃんと出ることが出来て。
ひょっとしたら苗字だってもらえるかもしれない。

俺はあんまりに大きなものを約束してしまったのだ。
幸村でもないのに。


「ただ今戻りました」
「おう」
濡れて帰ってきた弟は昔、まだ弁丸だった頃の目をしているように見えた。
「どうしたお前」
「傘が壊れて……うう、風呂」
ぺしゃぺしゃと靴下までずぶ濡れの音をさせて廊下を風呂場まで爪先立ちで走る。
背中を見送って首を傾げた。
「おい」
「わあ!」
風呂場を覗くと大げさに驚かれてまゆをひそめる。やはりなんだか違和感が消えない。
「お前、何かあったろう。」
「何も」
「嘘を言うな」
黙る。濡れた前髪を掻きあげてため息をついた。蛇口を捻ってシャワーを止める。
「俺と佐助の話です」
「そうか」


あれは本当は幸村のものになるはずだったもので、俺はそれを横からとった。
ひとつ飛ばして選んだのだ。幸村のが特別強いと知って。兄の特権を使ったというよりは、幸村に黙ってやった、と言ったほうが正しい。側仕えが、幸村のこと、というよりは幸村の母親の血筋、をあまり好いていなかった側仕えが仕入れてきた話で、俺はそれを聞いて、真田の家のため、元服前の幸村にやるには惜しいと思って。
まあ今となっては全て言い訳だ。佐助にも黙って、幸村にも黙って、俺は本来の主従を裂いた。

俺が兄のほうだと知って佐助はしばらく愕然としていたようだった。そりゃあそうだろう。迎えに来たのは、これが、と思い定めて夢想してきた相手、噂をせっせと仕入れては思いを募らせていた主人ではなかったのだ。
わかられてしまったのはそれこそ佐助がせっせと仕入れていた噂のせいだった。
「ねえ真田の旦那、あんた生まれは甲府なんだっけ」
え、と思ったのだ。それは弟の幸村だ、と教えると、しばらく黙って考えこむ顔つきをした。
なにか、味のわからないものを食べさせられて、これは何でできているのだろう、と噛み締めて考えているような顔だった。
はっとした。
「お前、まさか」
「きいてなかった」
悔しそうに聞こえたのは俺の思い込みがあったせいだったろうか。
激しいものを押さえ込んだ声だった。
「信之さまだってきいてなかった」
「左吉よりお前が強いから選んだ。」
すぐにぱきりと言い返したのは忠誠が揺らぐのを恐れたからだ。
佐助はたしかに特別だった。いともたやすく影に馴染み、潜る。潜っていられる時間も長い。他のものが、息を吸うなり、短く声を上げるなり、それなりの構えをもって影に潜るのに対して、佐助は水鳥のようにするりと沈んだ。そして不意に思いもかけぬところから出てくる。そんな芸当ができるものはそれまでに噂に聞いたこともなかったと皆口を揃えて言った。次の忍び長はこの子だろうと、俺が佐助を召し抱えてすぐに忍びの間で暗黙の了解となる、それを佐助もすぐに受け入れて、年が上のものも顎で使うようになった。それは時々目に余ることもあったが、それを許されるだけの鋭さが佐助にはあったし、たとえそういうことを言われても言い抜けるだけのずる賢さと抜け目のなさがあった。
何もかも飛び抜けていたが、姿を変ずるのにも通じていた。人の癖をすぐに見ぬいて真似をする。それを使って人の輪に混じり、聞いた話は忘れない。ちらと聞いた話について興味を持てば、座の話題をそちらの方向へ持っていくのも上手かった。
心技体、どこをとっても、と言えば身びいきだ、と言われてしまいそうだが、佐助はその体に生まれ持った性質だけでなく中身も性根も忍び向きで優れていた。

佐助は俺を見た。短いまつげが夕日を受けて明るい色の目に憂いとも映る深みを与えていた。
「弁丸様には」
「左吉がつく。あれも優秀だと聞いている。だがお前は飛び抜けていた。兄の方に強いものがつく。理だろう。」
「ことわり」
「そうだ。お前に断りもなく入れ替えてしまったが、それが道理だ。」
「どうり」
繰り返して、口の中でその言葉を転がすように、口に空気を含んで、おそらくは言おうとした何事かを仕舞いこんで佐助はしばらく、黙り込んだ。そうして、膝の上に載せられた猫が諦めた時のように深く、息を吐いた。
「俺様もうあんたのなんだね」
「そうだ」
堅苦しい言葉は使わずともよいと言い渡した。佐助の特別扱いを佐助はなんだか嬉しそうにして、ねえねえあんたあんた、と俺にまとわりついていた。
それが失われてしまうのが俺は怖かったのだと思う。特別な子供を特別扱いして特別になつかれる。そういった相思相愛が壊れてしまうのが惜しかったのだと思う。
すべての家臣に対し信を得ては置きたいと思ってはいた。が、ある程度は仕方ない、と商売のような損得勘定を割り切る中、俺は佐助の信を得たものでいたかったのだ。

佐助の心臓に近い場所に俺の紋を刺青で入れたのもそのためだった。
佐助にいいか、と問いかけた。そうすればお前が、ここを貫かれて死なぬ限り、どこかで打ち落とされたとしても俺の忍びだとわかるだろう、と。頷いて欲しいと思って問いかけた。佐助はまた、黙った後で頷いた。
怪我をして佐助が戻ってくるたび、同じ理由で刺青は増えた。脇腹。二の腕。腿。背中。
何度目か、墨を入れる前、針を用意する彫師の横で横たわったまま、おれさま信用ないの、と熱の名残が残る涸れた声で笑った。そういうわけではない、とむっつりと返すと、だって、と胸元を指さした。
「ここに入れるだけでもそうないことじゃない。暗殺行かしてつかまってさ、ばれたらどうすんの。だめだよ」
「ばかものめ」
どかりと座って炭を塗ってある鼻柱をぎゅうとつまんで唇を尖らせた。
「お前、俺に損はさせぬと言っただろう。帰って来いと、そういうことだ。これは。」
小さく潰れた乳首の下に広がる刺青を親指で指す。へへ、と笑った。
「それ、ちょっといいね」
「いいだろう」
夕暮れだった。汗をかいた体を俺が手ぬぐいで拭ってやった。
針を入れる時、ううっと小さな声で呻いた。痛いか、と聞くと、少しね、と食いしばった歯の間から言った。
終わった後、障子を開けてくれと請われて開けたら、庭のあじさいの葉を鳴らして涼しい風が入った。
あれは春の終わりだったろうか。もう今となっては季節すら曖昧だ。俺はそろそろ織田に滅ぼされる運命を受け入れて、佐助を誰に与えるか考えていた。

最初は、幸村ではなくて俺と同じ名前、まだ源三郎と名乗っていたが信幸と名乗るだろう弟に与えようかと考えた。
俺がいなくなった後、嫡子となって俺を引き継ぐ子だ。幸村よりも年下であるが、俺の代わりに幸村の兄となる子。
今までの俺に成り代わる子だ。本来ならば俺のものはすべて源三郎に引き継がれるのであるから、それが順当ではあった。
だが、仁義は仁義と思って心を決めた。

「佐助」
最後の刺青、背中に入れた一等大きなものの定着が終わって、包帯がとれた佐助を呼びつけた。
もう秋であったように思う。定かではない。あの頃の記憶はなにもかも曖昧で、佐助と話した中身だけを憶えているのみだ。
「お前を、幸村に譲ろうと思う」
「え」
「武田は織田に滅ぼされる。わかるだろう、世の流れが。」
俺は腕を組んだ。
「俺は使い捨ての嫡子でな。すでに挿げ替えの弟がいる。だがそれは幸村ではない。その下の、俺と母親が同じ弟だ」
「なにそれ。あんた死ぬ気?ねえ。死ぬ気なの?」
言い募る時、佐助は震えていたように思う。だが、それは俺の願望かも知れぬ。
膝の上で手を握っていた。眉を上げて、驚いているようにも、怒っているようにも見えた。あるいはそれは表面上だけの装いで、内心は幸村に仕えられることに喜んでおったのかも知れなかった。
それは俺にはわからぬことで、だが、これから死ぬ身としてはさして知りたいとも思わなかった。
俺は生への執着も何もなく、もう佐助を、よい馬や刀といった持ち物を集めることも諦めていた。
あの時の俺であれば、赤兎馬をやると言われても特に興味を掻き立てられなかっただろう。
「盛者必衰は理だ。生きているのであるからいつか死ぬ。どうせ死ぬのであるならば俺は武田と死のうと思う。」
「ことわり。」
佐助は繰り返した。佐助にはわからぬ理屈だろうな、と俺はおかしくなった。思えば昔もこれで佐助を言いくるめようとしたのだ。今から思えば理不尽なごまかしを言ったように受け取られただろう。それでも、佐助は諦めて俺についてきてくれた。
佐助は偉いな、と猟犬や軍馬や、子供に思うように思った。
「幸村の傍について、守ってやってほしい。お前を俺と一緒に殺してしまうのは惜しい……お前は、よい忍びだ」
褒めながら、慈しむ気持ちで目を細める。
「お前に、何度か本家で幸村を見せたことがあるだろう。お前は人の顔を忘れないたちだから、幸村のことはわかるな」
「……わかるよ」
「ならば大丈夫だな。俺が討ち死にしたら、首などはいい。お前はまっすぐに幸村のところへいけ。父上に話は通しておく」
実はもう話はつけていた。ちょうど幸村のところの左吉が幸村を矢からかばって死んだ折で、俺の願いは存外すんなり許された。本来のしもべを、元のところへ。それで想定外の穴を埋める。父上にとってはそれだけの話であった。

「お前は何度かずるいことをしていたな、幸村のもとではするなよ。あれの臣下はあれに似てまっすぐで苛烈だ。俺の特別扱いもあちらでは通用しないぞ。生き物をいたずらに殺めるな、特に座敷の猫はいかんぞ。」
「……はい」
不承不承、といったていで頷くのがかわいかった。思えば子供らしくないところを気に入っていたのだが、育ってからは逆に子供らしいところを気に入っていたのだった。
何度か、佐助に意地の悪い事、些細な事でも佐助の気に入らないことをした者の食事に鼠の死骸だの虫だのを混ぜていたのを知っていたし、女でも平然と足を引っ掛けたり、扱いが悪いのも知っていた。博打を持ち込んで流行らせたしイカサマをして酒代を稼いでいたのも知っている。何度か城下の娘を孕ませた。流言飛語で目をつけた何人かを辱めた。それで職を失ったものもいた。一時期火事場でよく見たなどという噂もあった。全体としてはろくでなしだった。
だが俺はこの生き物をついぞ叱って罰する気になれなかった。
佐助を迎えた日を今でも憶えている。髪は短く刈ってあって、全て、後ろに流していた。今では馴染んだがその頃は重たそうな面当てをつけていて、本人もまだ慣れていないのか首がなんだかぐらぐらしていた。
俺の前に膝をついて、声変わりのすっかり終わった声で名乗った。猿飛、と呼びかけた俺を見上げて得意げに歯をちらりと見せてわずかに笑った。忘れてなどおるものか、と俺も頷き返して小さく笑んだ。
晴れて、風の微塵もない日だった。俺と佐助の間も、俺の将来も、全て晴れ渡っているように思えた。

「嘘はもうつくな。さいころもいかん。弱いものをいたぶるな…………ふ、」
言い募るたび、気まずげにちらちらと目をそらしては肩をすくめてもじもじする。それがいじらしくてつい笑った。
「このぐらいにしておいてやるか。まあ幸村のもとでは襟を正して素行を直せよ。兄の元でこのようなものがのさばっていたと幸村に知られては死んだ後の面目がたたん」
「しないよ」
拗ねた子供のような声ですぐに返事をする。子供か、とからからと笑ったら佐助の膨れていた顔もじきに笑いに歪んだ。
「ねえ俺様あんたのことわりかし好きだった」
「なんだ、もう死人扱いか。そんなに幸村が好きか」
「わかんないけど。……でも、ずっと」
小首をかしげて困ったように笑う。
「ずっとおもってたから」
真田の旦那、は俺用の呼び名ではなくて幸村を呼ぶ名前だった、と白状した佐助は生娘のような頬をしていた。


挑戦的な目をした幸村を睨み返す。
「お前と佐助の話か、興味がある」
「兄上には関係のない事かと」
「くちばしを挟むなと言うか」
言いよどむ。そんな態度、俺の言葉を認めているに相違ないぞ、と茶化してやろうかと思ったがやめた。
「俺とて佐助の主だった人間だぞ。話してみろ。ちょうど今晩のテレビがつまらんと思ってくさっていたところだ」
風呂場の扉を閉める。何の因果かまた兄弟に生まれついた。歳の差から言えば源三郎も生まれていい話ではあったが、どうやらさしたる不服を持たず大往生を遂げたものは転生しないものらしい。
奥州の独眼竜もまたこの世にあるらしいと聞いたから、あれは天下人を心の奥底では諦めきれずに死んだものと見える。最初に聞いた時にはなんだか呆れたが、まあらしいと言えばらしいと思って笑った。生きた世はほとんど被っていないが、その父親の話なぞはよく聞いている。どうやら親の血を濃く引いたと見えて、幸村から武勇伝を聞いただけでおかしかった。
そうであるならば、と思った信玄も転生していて、この世は顔見知りが多くてなんとなし、生まれ変わったと言うよりは生き直している感が強い。それによほど煩悩が強かったらしく記憶までほとんど残っている始末、これはよっぽど業が深いと苦笑うほどだ。

それにしても悔しかったのは佐助だなあ、とリビングのソファーに座りなおして思う。
結局幸村に尽くし遂げて、末期は壮絶であったと幸村本人から聞いてはいたが、それが幸村が十にもならぬうち、幸村めがけて駆けてきたと、ランドセルを背負った幸村が佐助を連れ帰った時には仰天した。
佐助の方も俺を見て驚いた顔をしていたからよくよく思惑の外だったらしい。
親はゆるいらしいのに、中学は家から出られなかったと悔しそうに言って、高校になる時にとうとう家を出て近くに越してきた。そして幸村と同じ高校を選んだ。まあ俺と同じ高校でもあるし、そもそも推薦をもらっての事。教師陣に信玄はいるわ上杉殿はいるわであるから幸村と同じを選んだと言うよりは集められたに近いのかもしれないが。

腕を組んで幸村を待つ。幸村は俺のように忍びは忍びよとは扱わず、本当に腹心の部下として扱ったらしい。
佐助はそのように扱われてどう思ったのだろうか。
再開した折めっきり人間らしい顔になっていたのは転生した事に理由があったのではなく、幸村の影響があったのだろうか。
考えて、幸村が生まれた時のことを思い出す。
佐助を迎えた時と似た喜びがあった。俺の、弟。生まれてすぐに分かった。幸村だ。俺の弟だ。
昔と寸分変わらぬ、俺の愛しい弟だと。
幸村と名付けた。父親も母親もまったく普通の人であったから難しいことではあったがやり遂げた。
何の因果か生前と同じ名前をもらった俺の弟に、俺の弟が生まれついたのだからどうしてもと思ってやり遂げた。
俺の中では、同じように幸村も佐助も特別だった。愛すべき庇護すべき、俺の。

「兄上は俺が佐助にひどいことをしたとお思いですか」
バスタオルで長い髪をがしがしと拭きながらやってきた幸村の開口一番がそれだった。
だがそれも中学時代の芋ジャーを着てのことだから様にならない。
「まあ座れ」
「俺は佐助が今更俺を放り出そうとするのが我慢ならなかっただけです」
「座れ」
渋々腰を下ろした幸村は憮然としていた。
「眉間に皺が寄ってるぞ」
「佐助に腹を立てているのです」
「ほう」
「兄上には」
「わからないとか言うなよ。兄ちゃん泣くぞ」
「茶化さないでください!」
机を叩く。珍しいことだ。
「俺を甘やかしたのは佐助です。俺が道を誤った……ひとり真田の家の汚点となったのは佐助が俺を甘やかしたのもあるでしょう。ただそれは一端です。部下の目隠しに気づきもしなかった俺の不覚、不徳の致すところです。」
「だからそのへん俺死んでるんだって。」
「聞くとおっしゃったのであれば聞いてください!」
逆切れかよ、と思ったが幸村の様子は尋常ではなかった。降参の印に両手を開いて上げてみせる。
背もたれに寄りかかると幸村はまた口を開いた。
「今更なことを。どうにもならぬことを蒸し返して何になるというのです。今頃気付いてそれを償おうとしてどうなるというのです。出来ぬことを……俺の知っていて止めずにいたのを知らぬと思い込んでいる、そのことを憐れと思っていた俺の愚かをも微塵も知らないで、償おうなどと、本当にばかばかしい。それも、よりによって政宗殿の前で」
「伊達の小倅ねえ」
「……小十郎殿と通じていると知った時から、嫌な予感はしていたのです。あの方は、そういうところ、時折末恐ろしいほど残酷です。興味本位で人の縁を壊しても平然としている。」
「ほう」
「俺の思っていたよりあれはばかでした。だから」
瞳が光るように力を持つ。
「俺が守ってやるのです」
言い切った幸村を見て、俺はなんだか、どいつもこいつも昔のままかと思ったら案外育っているものだなあなんてのんきな感想を持ってしまった。



げんじろは実は本当に次男説、っていうのをこないだちらっと考えてみたけどけっこういれかわりの死に際がめんどくさい。

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