2017-11

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拳を握ると痛くて

生きてるんだと錯覚、して眉を潜めた。痛い。人なんて殴るせいだと頭の中で突っ込みが入る。

ああそうだよなーだよなー。適当に相槌打って撃沈。わしはもう立てません。そういうの、一番言えない立場を選んだので、わしは。



三成に憎まれている。

選ばされたとか言えないのは竹千代に生まれた頃から知っていたんだと頭では理解しているから心が納得しない。大体あいつら基本的に仲が悪い。常にどっちかが理想に基づいた正論吐いてどっちかが現状に即した正論で反論して喧嘩してる。そんなことを昔大谷にこぼしたらぬしと三成のようなものかとわかるようなわからないような理屈で笑われた。あいつは肩で息を吐くリズムで笑う。

それは今でも変わらないかとふと想いを馳せる。



思えば三成には随分昔から噛み付かれたり怒鳴られたり、決裂は今に始まったことじゃなかった。けれどわしは三成を好きだったし三成もわしのことを、多分、嫌いではなかった。希望的観測。仕方ない。人の心などわけがわからない。

嫌われてなければよかったとこの期に及んで想う。



血の匂いをまだ知らぬ関ヶ原に陽が落ちる。あくびを噛み殺して今日はもう終いだな、と思った。フードを脱ぐ。風が裸になった耳と首筋を嬲って通り過ぎた。それを気持いいと思う。

山向こうから法螺貝が聞こえて、ああ本当に終いだ、理解してじくじく痛むままそれでも握っていた拳を解いた。

決着のつかない睨み合いに陥って固まったままいっそだれてきている戦が明日に繰り越される。

小早川はまだ山から降りてこない。



松明がともされてのぼりがばらばらと地面に伏せる。雑兵どもが口々に何事か言いながらだらだらと具足を脱ぐ。動かぬ戦況についての不平か一日重い戦装束で立ちっ放しの毎日への愚痴か家にいるより質素な食事への不満か、耳を澄ませて聞き取らねばひょっとすれば足を掬われるかも知れぬ。思いながら三河の土地や風よりも人を偲ぶ。幼い頃に慈しんでくれたわしの土地に生まれて育ったわしの乳母やわしの乳兄弟や屋敷の飯炊き女たちや優しい厩の下男たちや庭番の兄いども。



天幕から味噌を溶かす匂いがする。あつものが出るのか、深く息を吸って吐く。

伊達軍のメシがうまい、そんな話を、一番遠くから帰ってきた雑兵が話している。鱗のように並んだ板札が擦れて鳴るがちゃついた騒音。あそこは一番上が料理上手だからなぁ、と隣の家の女房の話でもするように話す。

ああでもあったかいメシが食えるだけずいぶん、そこで会話は途切れた。夜気をはらんで風がまた吹く。

踏み荒らされた夾竹桃の残骸を鳴らして草原を渡る。



戦場で伊達の人間は分かりやすい。全員が黒漆で塗られた五枚胴。遠くからでも一目でわかる。足軽だろうが対象だろうが全て同じ鎧で、さらには同じ釜から飯を食うのだと聞いたことがあった。それだけ伊達の結束は硬い。

それを羨みながら宝を問われれば三河武士と応じる。事実、喪った部下たちは皆胴にせよ首にせよ前から斬られて果てた。背中傷のあった死体はひとつもない。何人かの顔はすぐに思い出せる。ただそれでもどこで何人を失い誰を死なせたか、全員を思い出せぬ自分を薄情だと己で笑う。一方でどこかでわしも人間だと思い出せぬことに言い訳をしている。

それでも三河の者たちはわしの誇りだ。背負いきれぬ程に重いから盾にしている。

「忠勝」

名前を呼べば機械の唸り声がすぐに答える。人間はわしが皆殺してしまった。

きっと三成は獣になって四つ這いでわしの元へ駆けてくる。

「文を書く。小早川について、皆不安に思っているだろうからな」

振り返った己が家紋が松明で照らされて明るい。清冽な山の空気に混ざって燻された匂い。今日の薪は湿気が多い。少しいがらっぽいな、と喉をさすって首をしかめた。忠勝が天幕に消える。

不意に、一人だ。石の多い地面を見下ろして足を踏み出す。陽が落ちて急に気温も落ちた。パーカーのポケットに両手を入れて握る。鬱血のじくじくとした痛み。所在の不確かな痛みを拳を握りしめて敢えて傷めつけて明確にして安堵する。雑然と脱がれて適当につくねられている具足は縅の色も形式もまちまちだ。それはこの軍が絆の力で出来ていることの現れだ。



そうだ、とひとりごちて吐いた息が体から熱を奪って夜に消える。



皆を束ねるには誰しもを受け入れねばならない。そこに伊達の具足や真田の赤備えのような1つ揃えは存在できない。

わしは無色でなければならない。笑って違いを認めねばならない。それでいいのだと。

「は、だがしかし、わしの帰属する先はどこにもないな」

弱音をこぼす。かつて同じ台詞を吐いたときに三河が泣くぞ、とかつて顔をしかめた片目の竜はおそらく今頃自軍のために腕を奮っている。







思えば遠くへ来たもんだ

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