2017-09

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セルティと帝人で静帝という鬱。

化け物が人間に恋をしたから極論に走るのです。

「なんちゃって」
と、ソフトクリームを舐めた舌を突き出して帝人がおどけた。
私は帝人がぶらぶらさせる足、そのズボンの下の惨状を考えて尻の据わりが悪くなった。
それを知ってか知らずか、コーンの最後を噛み砕いた帝人がぽん、とベンチから降りて、行きましょうか、と私に向かってにっこり笑った。

「静雄さんがねえ、この間」
帝人はなんでもない顔で歩く。私が緩めた歩幅よりも大きく、足を踏み出して一歩一歩をふみしめて、一種大袈裟な動きで前へ前へと進んで行く。
「観覧車を壊して、警察は来るしニュースにはなるし、僕らは走って逃げちゃって」
正面から吹くビル風に乗って帝人の笑い声が高く低く、五線紙の上の音符みたいに弾んだリズムで私の体を突き抜ける。
「だけどきっと係員さんは本当の事を言っても信じてもらえなかっただろうと思うとやっぱり申し訳なかったかなあ、なんて」
口先だけの謝罪。帝人は背中で手を組んで足を踏み出しながら空を見上げている。
お前はあの時静雄があまりにも強く強く手を引いたから肩を壊してしまった。
笑いながら走っただろうに静雄の一歩が早すぎたから追いつけなくて強く引かれすぎてしまった。
静雄がお前だけは捕まらせるまいと必死になったから靭帯が千切れてしまった。
伸びをして軟骨を擦り減らしてお前は逃避行を思い出してさも楽しげに浸りながら目を閉じる。

「あのひとったら本当にしょうがない人ですよねえ」
その気持はよくわかる、帝人。
だけど、一つだけわからない。
『帝人、教えてくれるか』
突き出したPADの文字を首だけひねって見つめた帝人が頷きながら身を翻す。
「なんですか?」
くるりと、回って私の方に向き直る。
私はためらいながらも素直な疑問をキーボードに叩き付ける。
『どうして、静雄は観覧車、なんかを』
デートなら、たとえ誰にどんな暴言を吐かれたってあいつはきっと帝人の気持を優先しただろうに。

「ああ」
帝人が小首を傾げる。私の目のあるべき場所をまっすぐに見つめる。
「あの時ね、実を言うと僕はただついていっただけだったんですよ」
『え?』
「静雄さんが壊しに行くって言うから、見届けについて行ったんです」
まばたき一つ。それと一緒に帝人の首が元に戻る。私と向かい合って、見上げる形で顎を上げて、愛荒れてるって自信をまなじりにみなぎらせて、睨むような目つきでぴったり閉じた唇だけを笑いの形に歪めて、もう一度、まばたき一つ。
「思い出は、もう僕の以外いらないって言ったので」
帝人が口を開くのを私は果たして待っていただろうか。
聞く前に塞いでしまいたくはなかっただろうか。
「一つずつ、壊していったうちの……観覧車は、いくつめだったかな?」
帝人がもう一度首を傾げる。のろける口調で続く先を私は多分もう知っている。
「後輩の、女の子にどうしてもと言われて乗ったんだそうなんですよ」
そうだ、新羅が高校の時に話していた。上手くいけばいいと私だって祈った。あの時。
折原臨也に邪魔されずに今度こそ静雄が当たり前に幸せになれますように。
帝人と出会って私の祈りは成就されたと思っていた。思っていたんだ。相手は違っても、と。
「そういう思い出は僕との以外もう一つだって要らなくって捨ててしまいたいそうなので」
彼女は夕焼けを、見ただろう静雄と。私に祈られながら勇気を振り絞ったかも知れない。
私の理解は正しくないかも知れない。それでも私だったらその思い出は例えばどうしても何もかも上手くいかなくて落ち込んだ時、あんな事もあったと取り出してささやかに慰められる、そういった類の物になる筈ではなかったのだろうか。ちっぽけだけれど暖かい慰撫をささくれた心に与える、か細い支えの一端を担うようなものではないのだろうか。
あなただけ、と特別に愛された記憶。それが静雄にとって甘酸っぱくもない美しくもないただの余計な物になってしまった。
「見たら思い出すものは……って、そういうことで、しずおさんが」

照れくさそうに口に出した帝人がふと眉根を寄せて目尻をくしゃりと歪ませる。眉尻を下げて、唇を引き結んで、口角は下がってしまっている。それでも帝人は笑っている。笑おうとしている。
「本当に、しょうがない人ですよねえ」

その気持を私は知っている。

化け物に人間が恋をしたから極論に走ってしまった。

「僕だけでよかったのに」
携帯電話からお前は何人の名前を消しただろう。どれだけを心から捨てようと努力しただろう。家から持ち出した物を全部捨てた事を私は知っている。学ラン姿のお前が映っていた中学の卒業アルバムの角が薄いゴミ袋を破って突き出ていたのはお前達が付き合い出してすぐの事だ。お前の家で見た家財道具のすべてが指定のゴミ捨て場に並んでいて一瞬お前が引っ越すのかと錯覚した程、それはまさしくお前の家にあった全てで、子供の頃から使っていたと容易に知れる使い込まれた辞書や少しひびのいったマグカップまで整然と並んで降り出した雨にうたれて湿った空気の中でいつもより輪郭をくっきりとさせていた。

私はお前がもう半年以上実家に電話をしていない事も知っている。

多分それは私が新羅を信頼している、つまり新羅以外の誰も信頼していない、そういうことと同じなんだろう。私はない筈の目を伏せる。つまり俯いた気持になる。

化け物が人間に恋をしたから極論に走ってしまった。
それは化け物だからしょうがない事だ、で片付けられるけれど。
『帝人、その、』
「だけど、もうしょうがないですよねえ」
私が突き出したPADにも気付けない俯いたお前の前髪の内側にだけ雨が降る。声の湿度は帝人の胸の内で起きてる氾濫の現れだ。
「僕のせいでも、もう僕にだってどうしようもないんですからしょうがないですよねえ!」
涙を振り払う勢いで叫んだお前はダラーズに静雄を重ねているんだろう。
神様、と私はただ青く見えるばかりの大気圏を見上げて肩を下げる。
どうして帝人のちいさな肩に余るようなものばかり与えるのですか。
至上の喜びを与えておいて、与えるのと同じやり方で奪うのですか。

僕がいなければよかったと啜り泣いてそれでも、帝人はなんとかしようと立ち上がろうと試みて、生まれたての草食動物の映像さながらに崩れ落ちているのが、あなたには見えていないのですか。

お前の薄い肩が早い呼吸に合わせて上下している。
食いしばった歯の間から名前が聞こえる。
こんなときだって、呼ぶ名前は一つだけだ。






ひとりだけで化け物のはずだったのに伝染して感染させてしまった。
お揃いだとあなたは笑うけれど私はあなたが世界で二人ぼっちなんて耐えられない。

私があなたの名前を呼べば私にはあなた以外の世界はなくなるけれど
あなたには私以外の世界をなくして欲しくなかった

それが苦しくて涙を零したって、極論しか持てない化け物には名前を呼ぶ以外どうしたらいいかなんてわからなくて、またあなた以外の世界をなくす。

私は帝人の頭に手のひらを置く。新羅、と胸の中で呼びながら。
新羅、お前は幸せだろう?と私の中にいる新羅に確かめながら。

帝人の頭を撫ぜると静雄の煙草の匂いがした。
泣き止もうと息を深く吸う傍から嗚咽に変わる帝人が喉の奥をひくひくさせながら歯を食いしばる動きがつむじから伝わる。

愛したのと同じやり方で愛し返されて幸せになれないなら愛し方が最初から間違っていたのだろうけれど化け物だから他のやり方を見つけるって穏便で当たり前の事も出来なくて極論しか見つからない、ので

愛すれば愛するだけ自分の首が絞まってしまうのに愛ばっかりが募るので。

神様、自分なんていなくなればいいですよね、と願いながら傍にいるのです。
化け物なのに人間に愛されたから極論に走ってしまった。
私達ふたり、主観的に、とてつもなく、不幸。

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