2017-11

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例えば10年経ったとして(静帝)

忘れないだろう、と思う。例えば高校生の時の鞄の中身。時々小指の爪を噛む癖。困った時には首を傾げて曖昧に笑う事。とれかけたのを自力でつけ直そうとし た結果、一番下だけ校章が逆さまのブレザーのボタン。ガムシロップを2つ入れないとコーヒーが飲めなくて、なのに追加をもらうのを中々言い出せなくて、いつも俺のを使っていいかと尋ねるときの顔。
5年後、例えばこいつが大学生になっても、何になっても、様変わりしても、何も変わらなくて も。
忘れないだろうと思う。毎日何を見たって何かしら、思い出すだろうと。

センチメンタルだな、と自分で笑った。柄にもない。 ひょっとしたら知らなかった自分の素の部分なのかも知れないがどうでもいい。妙に気分がいいから、どうでも。

外は雨だ。煙草を銜えようと してやめた。雫の浮いた窓からささやかな冷気。起きていると背中が冷える。5年後の自分、なんて小学校の授業でもあるまいし。呼吸に混じって笑いが漏れる。久々だ、先の事を考えてこんなに気分がいい事なんて。
暴力を自覚して大人になる事を意識してからずっと、まともな職になんて就けないだろうと思っていた。家族だってそれは同じだったろう。両親が進路選択の時に、私達の事はいいから静雄の一番好きなようにしなさいと何度も繰り返した事も、嫌になる程につつましく、堅実に暮らしている事も、幽が早くも中学の頃からマネートレードについて勉強し出したのだって、関係があるかも知れないと思っていた。

それが重荷だったと言えば嘘に近い。が、いつも感謝しなくては、優しく、弟や両親にだけは思いやり深い人間で あらねば、と思っていなかったと言っても嘘になる。

は はは。思い返したら笑いが声になった。中学を卒業して、意味があるのかと思いながらも親の、ほぼ唯一の希望を受け入れて高校に行って主に人間関係で後悔しながら卒業して、そんで結局フリーターだ。つぅのにバイトすらどれもこれも長続きしねぇしこりゃあいくら俺でも親にあれこれ言われてもしょうがない。自分 でもそう思う。だっつうのに親は体が一番だとか辞めるたんびにほざくぐれぇ無闇に優しいし、幽は大金を稼いだ上に人気俳優。文句は言えねぇよ、トムさんが 目尻を下げたのにだってキレるどころか苦笑いしか出来なかった。迷惑をかけたくない。そう俺が強く思う一方で家族には縋ってこいという無言の包み込みがある。キレられるはずもないのに息苦しい。

だから先を考えるのが嫌いだった。うすぼんやりとだが、ずっと。
5年後だって10年後だって、難しいから考えるのなんか面倒だ、俺の性には合わねぇと誤摩化して目を、背けてきた。

だっつうのに、なぁ。
ふ、と苦笑の息に混じって、ぱたぱたと雨粒が窓や地面や木の葉を叩く無規則で静かな音。
雨足が強いから、寝息は耳を澄まさないと聞こえない。
手足を丸めているから、寒いのかと思って足元から毛布をたぐり寄せた。布団の上からかけてやるついでに頭を撫でる。ガキ臭さの消えない細っこい髪は5年後 10年後はどうだろう。髪質は第二次成長期とやらでも変わるもんだったろうか。思いながら、こっち向いて横たわって、身じろぎすらしねぇで寝てる顔にかかってる髪を指先ですくって耳にかけてやる。呼吸が静かすぎて、思わず生きてるかとかがみこむと、短いまつげがささやかな呼吸に合わせて震えていた。可愛いな。思って笑ったら頬の産毛が俺の息でそよぐのまで見えた。吹き出しそうになったのを堪えて体を元に戻す。

縋るように繋いでくる手のひらや、絆創膏を鞄から探す仕草、週末になるにつれ皺が増えていくズボン、落書きのない教科書と必要なものだけ入ってるシンプルな筆箱。一緒にいるだけで増えていく何もかもが減っていって、すっかりなくなるいつかの日。そんな日が5年後、10年後、いつになっても思いつかない。

なんのためだかよくわからない、元はみどりだかなんだったかの名前がついてた四月唯一の祝日。帝人は休みボケがさめてきた頃にやっと訪れた休日を堪能すべく健やかな寝息を立てている。
俺 一人起きててもしょうがないな、と溜息ついでに笑って伸びをして、帝人の体温でまだ暖かい布団に滑り込み直す。首の下と枕の間の隙間に手を差し入れてつむ じに鼻を埋めて、深く息を吸えば流石に身じろぎをした。ん、と唸りながら眉間に皺を寄せて居心地悪そうに、俺の腕に頬をすり寄せて、満足した顔で深く、深く肺一杯に息を吐く。吐くはずだった息が喉の奥で潰れて、こみ上げて来る笑いに完全に取って代わられた。腹筋が震える。くつくつ笑いながら空いた右手を背 中の方に回して、髪を掻き回して抱き寄せる。雨降りの窓に背中を向けて。
朝メシはまだ苦手な卵焼きか、失敗した末のぼろぼろで甘いスクランブルエッグだろう。それとも昼過ぎに起きて、寝すぎたなぁなんてぼやっと笑って、適当に外にでも食いにいくか。

腕の中でやわらかい体が上下する。多分忘れないだろう。忘れられないだろう。何もかも。
例えば10年、経ったとしてもきっと、涙ぐむほど忘れない。

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