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2019-04

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15分ライティング

初恋・家康・濃姫(20時)


年上が好きかと問われたことがある。からかうような口ぶりであったから、きっと他意はなかったのだろう。
あのひとのことをどれだけの人間が覚えているのかと振り返る。
独眼竜は忘れているだろうか。傍にいたのは儂と、それこそ蘭丸、明智殿、信長殿。敢えて数えるならばお市殿。
みな、いなくなってしまった。
刃を交えた人のうち、憶えている人はいるだろうか。

苛烈であった。美しい人であった。女であった。
子が出来ぬとそれだけで謗られ、ならばせめて戦功で役にと火薬の煙にまみれ、孕むために薬師を呼び、こっそりとまじないまでして、身を削り、顧みられないひとであった。
蘭丸にはわからぬ苦労をしながら、蘭丸を我が子のようにかわいがり、お市殿にはそれとなく、憐れまれ、重臣どもには苛まれて、それでも信長殿や明智殿の前では背を伸ばす。

いつか、暗い廊下で行き会ったことがあった。襖の隙間から廊下へ、肩から先だけを出して咳き込んでいた。駆け寄った中に、わしは見てはならぬものを見て凍りついた。
のうひめさま、と。口走った儂の手を白魚の手でふさいで、自分の口を抑えながら、吐き気をこらえながら、濃姫様は、大丈夫、と言った。
大丈夫、竹千代くん。なんでもないわ。なんでもないの……。
儂にはそれが、上総介様のためならばこれぐらいなんでもない、という意味に聞こえてしまって、濃姫様、それは、それは違う、と。口にしたかった。したかったが儂は人質で、子供で、忠勝だよりの本当にただの、幼いこどもで、儂は。
ゆっくりと身を起こした濃姫様が袖を翻して襖の中に戻ってしまうのを。閉まってしまった襖に手をかけることも。

「テメエは子宝に恵まれていーいなあ」
ふ、と回想から引き戻されて、元親が庭を眺めているのに気づく。
「ああ、うん、まあ、なあ」
苦笑いするのは、少し気恥ずかしくもあるからだ。子供時代を知っている人に子沢山を言われるとなんだか無意味に照れて、恥じてしまう。あんなに小さかったのになあとからかわれている心地だ。
「子が出来ぬうちはなあ、どうしても家族になれぬからなあ」
あちこちから姫を養子にもらい受けた。その姫をあちこちへ嫁に出した。己の所業がどれだけの姫に苦しみを強いたかは考えたくない。それが戦国の姫の生き方と誰が言おうが、あの気丈で美しい人の咳き込む背中を忘れられぬ。
暗闇で白い肌は浮き上がるようだった。美しい人で、強かった。果敢で、可憐で、苛烈で、聡明で、それでも、子に恵まれなかった。それだけであの人は役立たずだった。

誰があの人を覚えていて、誰があの人を忘れているか。憶えているとしたらどのように記憶されているか。
おそろしくて、口には出せぬまま、儂は。
薬の道を習い覚え、ただ、子の出来ぬ姫がないように、ないように、ないように。頼れる父であるように。

そうして生まれた子のひとりでも、あの、かつて姫だったひとのもとへ生まれていればよかったのにと何にもならぬ悔いを抱えたまま、今年も夢の中で本能寺が焼け落ちて、年上の人を見れば、生きていればあれぐらいだろうかと目玉が向いて、苦労をしていないか気をもむのだ。
似ても似つかぬ他人でも。


トラウマちゃん。
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